《感動経営》は

経営評論家  平島 廉久


 バブルが崩壊して今年で満10年が経過。景気は、昨年はゆるやかな回復基調にあったものの、今年は一転して後退局面へ。これに伴い、松下電器産業やソニーなど日本を代表する企業が経営不振に陥り、厳しい状況となっている。
 こうした状況のもと、各社とも業績の回復に向けて懸命の努力を続けているが、筆者はいち早く、社員を経営の中心に置く、つまり人間中心の《感動経営》の推進を提唱した。
 リストラと経営の効率化が叫ばれるなかで、「《感動経営》は生ぬるい」といった声があるのも事実だ。
 しかし、21世紀に入り、多くの企業が人事制度の改革に取り組んでいるが、社員の仕事のやりがいや、生きがいを実現する人事制度の導入が進んでいる。この動きは、IT(情報技術)化、経営効率化が急速に進展するなかで注目すべきできごとである。
 たとえば松下電工では、「企業とは人材力」という考え方のもと、社員の一人ひとりが能力を高め、適材適所で成果をあげる企業をめざし、人事制度の改革を進めている。
 社員一人ひとりが自分の持てる能力を存分に発揮し、仕事に対するやりがい、さらには生きがいを実感してもらうのが狙いだ。
 その具体的な改革の一つが「人材公募制度」。これは各部署が必要な人材を社員のなかから募集するもので、社員は自由に応募することができ、自分の適性と能力にあった仕事を選ぶことができる。その結果、社員の仕事に対する意欲が高まり、仕事の成果があがるとともに、それがやりがい、生きがいにつながる。
 さらに来年の4月からは、社員が希望する部署を自由に選ぶことができる「フリーエージェント(FA)制度」を導入する予定である。この制度は社員の方から売り込むもので、人材公募制度に比べ、社員は能力をより発揮することができるようになる。
 このように、社員の仕事へのモチベーションを高め、やりがい・生きがいを向上させる制度は、松下電工のみならず多くの企業で導入しようとしている。
 以前の人事制度は「先に仕事ありき」で、それに社員をあわせるという方法であった。
 これは「靴に足をあわせる」ようなもので、うまくあえばよいが、あわない場合は当然のこと無理が生じ、苦痛さえ伴う。成果もあがらない。
 しかし、先の例のような人事制度の改革は、「足に靴をあわせる」つまり社員に仕事をあわせる、という従来とはまったく逆の方法となっている。
 こうした方法は、社員(人間)中心の経営そのものである。「企業は社員が中心となって、意欲をもって働いてこそ社員の能力がよく発揮され、仕事の成果もあがる」ということを、多くの経営者が再確認した証といえる。
 バブル崩壊後、多くの企業が年功序列的な人事制度から成果主義に改め、経営効率化を推し進めてきたものの、企業が期待するほどの効果をあげるまでに至っていない。
 それには評価方法などさまざまな問題はあるが、成果報酬だけでは社員のやる気に点火できなかったということである。社員は会社から必要な人材と認められ、尊重されてはじめて仕事へのやりがいが生まれ、能力を十分発揮するのである。
 「企業は人なり」という言い方があるが、今まさにその言葉が蘇ってきたのだ。《感動経営》は、これからも推進していく価値があると確信する。    


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